逆イールドの事実、景気後退・リセッションとの関係
ハイイールド債やイールドカーブコントロールなど、『イールド』が取り巻く経済への影響が非常に大きいことに気づくはずです。
その中で、逆イールドの発生を示唆することで、慌てふためく金融市場はなぜ、そこまで危惧を募らせるのか。
その裏で政府は何をしているのか。
そして、私たち日本人のような資産運用を政府から要請された国民は、少ない知識でどう『イールド』と向き合い、戦うべきなのかを改めて解説していきます。
➡︎政府による金融・経済の介入にも負けない機関投資家の強さは何か
そもそもイールドカーブとは?
債券の利回りをイールドと呼ぶというのはハイイールド債の記事でもお話ししましたが、このカーブというのは何か。
債権の償還までの期間の短い順に左から右に並べ、線でつないだグラフがイールドカーブです。
債権の仕組みと逆イールド
債権は短期であれば利回りは低く・長期であれば利回りが高くなります。(=『順イールド』状態)
イールドカーブの正常形は右肩上がりになります。
なぜなら、前述した通り、償還の期間の短い順番に並べているため、イールドカーブが右肩下がり(=『逆イールド』状態)になると長期債権の利回りが低下していることになるためです。
紛らわしいのでまとめます。
- 短期金利が安い・長期金利が高いこの状態のイールドカーブは右肩上がりになり順イールド
- 短期金利が高い・長期金利が安い状態で右肩下がりだと逆イールド
- 逆イールド=期間が長くなるほど金利が低下する=「短期金利>長期金利」
初心者のためのなぜ『イールドカーブ』は右肩上がり⤴︎になるか
イールドカーブという言葉は決して難しく考える必要がありません。
難しく考えずに短期債権は言葉通り、償還期間が短かいため様々な事象・経済動向に影響をされやすいと考えればいいでしょう。
言うならば、小さなボートのようなもので、小さい波や風の影響を受けやすいと考えてもらえればと思います。
逆に、長期債権は大型船です。
長期間にあらゆる事象や経済動向があることが前提で、大きな波や風に耐えれる資金が流入します。
つまり、長期間の荒波や風にも耐えられる資金というのは、限られているためその分金利は高くなるということです。
みなさんに明日返すから1000円貸してと友人に言わるのと、10年後に必ず返すから1000円貸してと言われるのとで、印象はどう変わりますか?
貸した側が1000円を必要とするタイミングが10年以内に来る確率と明日までに来る確率が異なるということも言えます。
1万円しか手元になくても明日には返ってくるならば、貸すかもしれませんが、しばらく9000円で生活する必要があると思えば躊躇するでしょう。
つまり、イールドカーブは順イールドで当たり前ということがよくわかると思います。
なぜ逆イールドが発生するのか?
逆イールドは中央銀行の金融引き締めがほとんどの理由になります。
金融引き締めをし始めるとデフレが発生しやすくなります。
つまり、金融引き締めをしてすぐには実市場への影響は少ないですが、数年かけて利上げを行いインフレ抑制をさせることを想定すると、短期の利回りは上がります。
逆に、金利を上げて金融引き締めをしていくということは、いつまでも上げ続けるわけではないため、利下げするタイミングが起こると想定します。
つまり、中長期は金利を上げてデフレ状態が起こり、景気が悪くなっていると想定するのです。
その結果、中長期の債権は利回りが上がらないため逆イールドの状態になります。
金融・経済の不安などの影響で短期金利が高いく長期金利が安い状態
=逆イールドが発生する
イールドカーブコントロール(YCC)と逆イールドの関係
逆イールドが金融や経済の不循環と捉えると、長期金利と短期金利のバランスを整える(コントロール)することで強制的に順イールド化させることがあります。
この時には基本的に、国債の買い入れ等を行い、市場操作・介入をし長期金利を上げていきます。
そして短期金利は長期へ流入しやすいように金利を調整させることを行います。
これがイールドカーブコントロールで、長短期操作とも呼ばれます。
簡単に言えば、自然にイールドカーブが逆イールド化しそうになったり、逆イールド状態になった場合、強制的に順イールドになるようにします。
ここで言えるのは、
イールドカーブコントロールが行われるということは、景気動向事態に不安視している経済や金融があるということです。
=逆イールドは景気後退を判断するトリガーとも言えるのです。
長短金利の逆転現象=逆イールドは景気悪化の認識で良いのか?
逆イールドは景気後退を判断するトリガーとも言えると言っておきながら、本当に逆イールド状態が不健全且つリスキーな相場(=景気後退・リセッション)と判断して良いものなのか?
というのもお伝えしておきます。
逆イールド発生から景気後退までの米国株
逆イールドの局面を迎えてからダウ工業20種の平均がどれくらい暴落したかを表にしているものを三井住友DSアセットマネジメントから参考にさせてもらいます。
この表を見て考えると逆イールドがアメリカ経済の暴落と関連づけできるようにも思えます。
アメリカは1990年以降、4度の景気後退(リセッション)が訪れており、米10年国債利回りと米2年国債利回りでの逆イールドはリセッションシグナルとも判断できることがわかります。
リセッションの判断材料
2四半期連続でGDP(国内総生産)がマイナスになると、リセッションとまず判断されます。
しかし、実際は正式には判定委員会が判定を行なっており、日本では内閣府の景気動向指数研究会によって判断されます。
逆イールドと景気後退・リセッションの相関性はない?
逆イールド発生からのタイムラグ
アメリカの先ほどの米10年国債利回りと米2年国債利回りの動向表は確かに事実ではあります。
しかし、逆イールドが発生してから実は景気後退。リセッションまで過去3回はの平均では、約2年2カ月かかっています。
*感染症による前回の逆イールドは突発的偶発事案として捉える
つまり、景気後退が直接逆イールドの影響を受けているのかを判断するほど、タイムタグが狭くないということで逆イールドとの景気後退の相関性はこじつけにも近いと論じられているケースもあります。
景気循環の周期と逆イールド
日本では景気のサイクル・周期で
- 景気の山=景気が最も良い状態
- 景気の谷=景気が最も悪い状態
- 景気拡大期=景気が回復していく状態
- 次の景気の谷=景気が後退していく状態
の4段階のプロセスがあるとされています。
日本で言えば、景気のサイクル・周期は平均で約4年半
アメリカの景気のサイクル・周期は約6年
となっています。
つまり、逆イールドと重複するタイミングが確実にあるのです。
アメリカは2009年の景気後退・リセッション時、ダウは一旦落ち込んだのですが、上昇トレンドが継続しているのも事実なのです。
出典元:みずほ総合研究所
ここで言いたいことは、逆イールドが発生しつつ、外部要因や社会情勢の因果関係により景気後退が起こりうる可能性を示唆するだけであって、逆イールドが常に景気後退のシグナルだとは判断しきれないのです。
逆イールドを上手に利用する経済
決定的に逆イールドが根拠としにくい反面、イールドカーブコントロール(YCC)の実行などは、不安要素を示唆する方法とも言えます。
景気は常に良いわけではありませんし、過度のインフレがあれば過度のデフレがあり、常に波打ちながら経済は動いています。
しかし、経済や金融市場は常にリセッションや不安因子を探すことをします。
特に日本はバブル崩壊後からのデフレ脱却で、デフレ恐怖症を患っているとも言えます。
そのため、経済や金融市場では逆イールドが出たことと関連づけて『アク抜き』『ネガティブサプライズ』を計画しやすい状態というのも確かなのです。
つまり、逆イールド自体には景気後退やリセッションを発生させるだけの裏付けはなくとも、景気後退やリセッション入りしやすいと考えるべきでしょう。