2026年7月31日、アメリカが円を買った。約28年ぶりの日米協調介入が意味するもの
2026年7月31日。
外国為替市場で、歴史的な出来事が起きました。
日本とアメリカによる円買い・ドル売りの協調為替介入です。
日本の財務省は8月3日、
米国東部時間7月31日、日本国財務省は米国財務省と協調して円買い介入を実施した
と正式に発表しました。
日米当局による円買いの協調介入は、約28年ぶりです。
単純に、
円安になりすぎたから日本政府が円を買った
という話ではありません。
今回特に重要なのは、
トランプ政権下のアメリカ財務省が、日本と一緒になって円を買った
ということです。
これは今後のドル円、そして日本経済を考えるうえで、かなり大きな意味を持つ出来事だと私は考えています。
1ドル164円目前まで進んでいた歴史的円安
そもそも、なぜ介入が必要だったのでしょうか。
2026年7月下旬、ドル円は1ドル164円に迫り、約39年8カ月ぶりとなる円安水準まで進んでいました。
150円を超え、
155円を超え、
160円を超え、
それでも円安が止まらない。
日本にとって円安は、輸出企業などにはメリットがあります。
しかし、行き過ぎれば当然デメリットも大きくなります。
エネルギー、原材料、食料品など、日本が海外から購入するものの円建て価格が上昇するからです。
企業にとっても、
原材料費が上がる
仕入価格が上がる
物流コストが上がる
価格転嫁が必要になる
という問題につながります。
つまり1ドル160円を大きく超えるような円安は、単なる投資家の問題ではありません。
日本企業の経営そのものに影響する問題です。
日本政府・日銀が動いた
7月30日夜、為替市場に大きな変化が起こります。
162円台後半だったドル円は、一時157円台まで急落。
わずかな時間で約5円も円高方向へ動きました。
そして翌31日にも再び大きな円高方向への動きが発生します。
その後、財務省が発表した数字を見ると、その規模の大きさが分かります。
2026年7月30日から8月26日までに実施された日本の外国為替平衡操作額は、
15兆3,993億円。
月次ベースでは過去最大規模の円買い・ドル売り介入となりました。
しかし、今回もっと面白いのはここからです。
ベッセント財務長官が円は割安だと発言
介入前後、トランプ政権のスコット・ベッセント財務長官が非常に重要なメッセージを出しています。
ベッセント氏は米メディアのインタビューで、円について非常に割安に見えるという趣旨の発言を行いました。
さらに、市場はいずれ円がもっと強くなるべきだと気づくだろうという認識まで示しています。
ここが重要です。
これまで円安問題というと、
日本政府が円安を嫌がっている
という構図で考える人が多かったと思います。
しかし今回は違います。
アメリカ側も円の過小評価を問題として認識した。
そして発言だけでは終わりませんでした。
ベッセント氏のメモに書かれていた日本円を買うという文字
今回の出来事には、映画のような場面があります。
7月31日、トランプ大統領の閣議に出席していたベッセント財務長官の手元をReutersのカメラが撮影しました。
そこにあったメモには、
日本円を50億~100億ドル買う
という趣旨のTo Doが記載されていました。
しかもReutersによれば、その日の早い時間帯に米財務省が複数の銀行に対して、円市場への介入の可能性を通知していたとされています。
これだけでも異例です。
そして8月3日、日本側が正式に発表します。
米国財務省と協調して円買い介入を実施した。
つまり市場の噂ではなく、本当に日米が動いたわけです。
なぜアメリカが円を買うのか
ここで疑問が出てきます。
日本が円安を止めたいのは分かる。
しかし、
なぜアメリカまで円を買うのでしょうか。
私はここが今回の出来事で最も面白いところだと思っています。
アメリカから見ると、極端なドル高・円安が必ずしも歓迎できるとは限りません。
例えば、
日本製品のドル換算価格が相対的に安くなる
アメリカ企業の価格競争力に影響する
米国製造業の競争環境にも影響する
日米間の貿易バランスにも影響する
という問題があります。
つまり、
円安は日本だけの問題ではない。
ドルが強くなりすぎることは、アメリカにとっても経済政策上の問題になり得るのです。
これは為替介入以上にメッセージが大きい
為替介入には限界があります。
政府が円を買ったからといって、永遠に円高になるわけではありません。
金利差、インフレ率、財政政策、貿易収支、経常収支、投資家の資金移動。
最終的な為替レートは、さまざまな要因によって決まります。
実際、介入後もドル円は再び160円近辺まで戻る場面がありました。
だから今回重要なのは、
15兆円使った
という数字だけではありません。
もっと重要なのは、
日米が円安を問題として共同で動く意思を市場に見せたこと
です。
為替市場には日本政府だけではなく、
米国財務省もいる。
投資家からすると、この意味は非常に大きい。
しかも一回で終わるとは言っていない
さらに注目したいのが、その後の発言です。
日本の財務省は、
今後、更なる協調介入を実施することも躊躇しない
と明言しました。
ベッセント財務長官も同様に、必要と判断すれば追加の協調介入への参加をためらわないという姿勢を示しています。
つまり市場に対して、
今回だけですよ
とは言っていない。
むしろ、
またやる可能性がありますよ
と宣言しているわけです。
ドル円には見えない壁ができたのか
ここからは私の考察です。
今回の介入によって、
ドル円の160円台には政策的な抵抗ラインが形成された可能性がある
と考えることができます。
もちろん、
160円になれば必ず介入する
という意味ではありません。
為替介入は水準だけではなく、変動の速度や市場の無秩序な動きなどを総合的に判断して行われます。
実際、日本政府も今回の協調介入について、最近見られた円の過度な変動や無秩序な動きへの対応だったと説明しています。
しかし投資家心理は変わります。
例えばドル円が、
160円
162円
164円
と上昇していったとします。
これまでなら、
まだ円安になるかもしれない
と考える市場参加者が多かった。
しかしこれからは、
また日米が円を買ってくるのではないか
というリスクを考えなければならない。
この違いは大きいと思います。
日本政府だけの介入と日米協調介入は意味が違う
私は今回の出来事を、
円安を止めるために15兆円使った
だけで理解するのは少しもったいないと思っています。
日本単独の円買い介入であれば、
日本政府 vs 為替市場
という構図です。
しかし日米協調になると、
日本政府
日本銀行
米国財務省
という構図になる。
世界最大級の金融市場を持つアメリカが同じ方向を向くということです。
そのため市場への心理的インパクトは、日本単独介入とはかなり違います。
円安時代の終わりではない
ただし、ここで
これから円高になる
と断定するのは早いと思います。
為替を決める最大の要因の一つは、依然として日米の金利差です。
さらに、
日本の財政政策
日本銀行の金融政策
米国の金融政策
インフレ
原油価格
地政学リスク
海外投資
なども影響します。
実際、介入後にもドル円は160円近辺まで戻っています。
為替介入だけで長期トレンドを完全に反転させることは簡単ではありません。
だから、
円安終了
ではありません。
私なら今回の出来事を、
円安を放置する時代に一つの転換点が生まれた
と捉えます。
企業経営者も為替を無視できない
そしてこれはFXをしている人だけの話ではありません。
むしろ中小企業の経営者ほど為替を意識する必要があります。
例えば、
1ドル140円と160円では約14%違います。
海外から年間1億円相当の商品や原材料を仕入れている会社なら、この差は経営に無視できない影響を与えます。
逆に海外へ輸出している企業には円安が追い風になる場合もあります。
さらにAI時代には、
AWS
Google Cloud
Microsoft Azure
OpenAIなどの海外AIサービス
SaaS
GPU
半導体
といったドル建て・海外価格のサービスや設備への依存も高まります。
為替は製造業だけの問題ではなく、DXやAI投資のコストにも直結する時代になっています。
2026年7月31日は後から振り返る日になるかもしれない
2026年7月31日。
日本政府が円を買った。
それだけなら過去にもあります。
しかし今回は、
アメリカも円を買った。
そしてベッセント財務長官は、円が著しく過小評価されているという認識を示し、日米両国は追加の協調介入も辞さない姿勢を示しました。
これは非常に強いメッセージです。
為替市場は、
金利
経済指標
チャート
だけで動いているわけではありません。
その背後には国家があります。
そして必要になれば、
国家そのものが市場参加者として入ってくる。
2026年7月31日の日米協調円買い介入は、それを改めて世界の投資家に見せつけた出来事だったのではないでしょうか。
今後ドル円が再び160円台、あるいはそれ以上へ向かう局面が来たとき、市場参加者は今回の出来事を思い出すことになります。
次に円を買ってくるのは、日本だけとは限らない。
この事実は、これからのドル円を考えるうえで覚えておく必要があると思います。
