投資で人間は感情や価値観を無視することができるのか
合理的な投資家の幻想による判断
株式市場の世界では、「感情を排除し、合理的に判断すること」が成功の鍵だとされています。著名な投資家ウォーレン・バフェットも、「感情的にならないこと」を投資の基本として繰り返し説いています。しかし、果たして人間は投資において完全に感情や価値観を無視することができるのでしょうか?
本記事では、実例や心理学的観点を交えながら、この問いに迫ります。
合理的な投資家の理想と現実
理想:感情を排除した冷静な判断
投資理論では、リスクとリターンを天秤にかけ、最適なポートフォリオを構築することが推奨されます。例えば、モダンポートフォリオ理論(MPT)は、分散投資によってリスクを最小限に抑えつつ、リターンを最大化する方法を提示しています。これらは、あくまで「合理的な投資家」が前提です。
現実:感情に振り回される投資家
しかし、現実の市場では、投資家はしばしば感情に左右されます。株価が急落するとパニックに陥り、売却を急ぐ。逆に、株価が急騰すると「乗り遅れたくない」という欲望から高値掴みをしてしまう。これらの行動は、心理学で「行動経済学」の分野で詳しく研究されています。
実例1:リーマンショックと投資家心理
2008年のリーマンショックは、投資家心理の脆さを浮き彫りにしました。世界的な金融危機が発生し、多くの株価が暴落した際、多くの投資家が保有株を売却しました。
一方で、少数の投資家は冷静に「今が買い時」と判断し、優良株を安値で買い集めました。このような投資家は、感情に流されずに合理的な判断を下したと言えるでしょう。
しかし、これが簡単なことではないのは明らかです。人間は恐怖を感じると、脳の扁桃体が活性化し、冷静な判断が難しくなるからです。このように、感情を完全に排除することは、生物学的にも困難です。
実例2:ESG投資と価値観の影響
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が注目されています。投資家は、単なるリターンだけでなく、投資先企業が環境問題や社会貢献にどのように取り組んでいるかを重視します。
例えば、再生可能エネルギー企業や環境保護に積極的な企業に投資する人が増えています。これらの投資家は、単なる利益追求ではなく、自分の価値観を反映した投資を行っています。
しかし、このような投資が必ずしも合理的であるとは限りません。利益率が高いが倫理的に疑問のある企業(例:タバコや化石燃料関連企業)を排除することで、リターンを犠牲にする可能性があるからです。
感情と価値観が投資に与える影響
1. 感情がもたらす短期的な判断
投資家の感情は、しばしば短期的な判断に影響を与えます。たとえば、市場が暴落した際に恐怖心から株を売却する行動は、感情が合理的判断を上回る典型例です。
2. 価値観が長期的な判断を形成する
一方で、価値観は長期的な投資方針を形成します。自分の信念に基づいて投資先を選ぶことで、投資が単なる金銭的利益以上の意味を持つようになります。
心理学的観点から見る投資行動
プロスペクト理論
行動経済学のプロスペクト理論によれば、人間は「損失」を「利益」よりも強く感じる傾向があります。このため、株価が下落すると、損失を避けようとして非合理的な行動を取ることがあります。
プロスペクト理論が投資勝率への執着を証明する
投資で知っておくべきプロスペクト理論とは
プロスペクト理論とは行動経済学最大の成果とも言われるもので、2002年にはダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞した理論です。
- 人は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先する。
- 逆に損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向がある。
という理論です。
元々は行動心理学ですがFXでなどの投資で非常に当てはまることが多いため、『投資とプロスペクト理論』は密接していると考えられています。
プロスペクト理論をみなさんにも例題を解いてみてください
以下の二つの選択肢どちらを選びますか?
A: 1000万円が無条件でもらえる
B: コインを投げ、表が出たら2000万円がもらえるが、裏であったらもらえない。
A: 無条件で借金500万円が減る
B:コインを投げ、表が出たら借金が全額免除されるが、裏が出たら借金はそのままである。
きっとみなさんは1個目の質問ではAで、2個目の質問はBを選んでいませんか?
簡単に言えばこの解答がプロスペクト理論です。
投資の心理状態で言えば、
- 自分に少しでも利益が出ている状態であれば、早く利益確定しようとする。
- 少しでも損失があると、なかなか『損切り』ができない
つまり人間は自分の直感での損切りがしにくく、ルールを作らないと正しい損切りはできない心理状態になるということです。
フレーミング効果
同じ情報でも、提示の仕方によって人々の判断が変わる現象です。たとえば、「この株は10%の利益を生む可能性がある」と聞くと投資したくなる一方で、「90%の確率で利益が出ない」と聞くと投資をためらうかもしれません。
若い投資家は感情と価値観をどう扱うべきか
これから投資を始めようとする若い世代にとって、感情や価値観を完全に排除することは不可能です。しかし、それをコントロールし、活用することは可能です。
1. 感情を認識し、距離を取る
感情を完全に排除するのではなく、それを認識し、冷静に判断する習慣をつけましょう。例えば、株価の急落時には一度深呼吸し、売却する前に「本当に合理的な判断か」を問い直すことが重要です。
2. 自分の価値観を投資に反映させる
投資は単なる利益追求の手段ではありません。自分の価値観を反映させることで、投資がより意義深いものになります。ESG投資や地域社会に貢献する企業への投資は、その一例です。
3. 長期的な視点を持つ
感情に流されず、価値観を活かしながらも、長期的な視点を持つことが大切です。市場の短期的な変動に惑わされず、じっくりと資産を育てる姿勢を持ちましょう。
まとめ:投資は人間らしさを映し出す鏡
投資は、感情や価値観を無視することが難しい行為です。しかし、それが人間らしさでもあります。感情や価値観を排除するのではなく、それを認識し、活用することで、より豊かで意義のある投資体験が得られるでしょう。
若い世代の皆さんには、投資を単なる数字のゲームとして捉えるのではなく、自分自身の感情や価値観を見つめ直すきっかけとして活用してほしいと思います。合理性と人間らしさのバランスを取ることで、投資の本当の魅力に気づくことができるはずです。